「緊急避妊」という選択肢は誰のものか?

「緊急避妊」という選択肢は誰のものか?

〜学習動画と資材の開発①〜
薬局での緊急避妊薬販売に備えて

 


 

「緊急避妊薬」をご存知ですか?

「アフターピル」とも呼ばれ、性行為後に数日以内に服用することで

妊娠を避けることが可能な飲み薬です。

1999年にフランスで薬局での購入が可能になり、
現在は90か国以上で医師の処方なしに薬局で購入可能になっています。(1)

 


 

はじめまして!岡田浩と申します。

京都大学で薬局情報グループを立ち上げ、「薬局薬剤師の社会へのさらなる貢献」を可能にする様々な臨床研究を進めています。

今回は皆さんとこの「緊急避妊薬」というキーワードについての話題提供を通じて、薬剤師の社会への貢献の在り方について、皆さんと一緒に考えて行きたいと思います。

 

 

「購入には医師の診察が必要」という日本の実態

 

さて、私が薬局に勤務していた5年程前、
外国人の若い男女が緊急避妊薬を欲しいと薬局に来たことがあります。

 

恥ずかしそうにアフターピルが欲しいと言う男性に、私は説明をしました。
「その薬を日本でお渡しするには、お医者さんの許可が必要だ」と。

 

購入できないと聞いた時のカップルのがっかりした表情。

制度の違いとはいえ、力になれなかったことを残念に思いました。

楽しいはずの恋人との日本への旅が台無しになったのではないかと、何だか申し訳ない気持ちになったことを覚えています。

 

 

海外では「薬局」での入手が可能な薬。
日本では2020年より「オンライン診療」での入手が可能に。

 

望まない妊娠を避けるため、海外の多くの国では入手しやすい薬局で扱える薬になっています。

妊娠を避けるためには、性行為後72時間以内、できるだけ早いほうがより効果が得られる薬です。

 

日本の現状とは?と言うと、
「薬局での販売は時期尚早」という検討結果から、2020年からオンライン診療が認められることになりました。(3)

 

この制度では、以下のようなフローで薬を手に入れることができます。
①オンラインで“医師”が診察する
②“病院”からの処方箋をFaxを“近隣の薬局”が受け取る
③“患者”は近隣の“薬局”でクスリを受け取る

医師による処方が必要と言う前提はあるものの
即時性が必要となる薬のため、薬局を重要なチャンネルとして活用しようとするための仕組みと言うこともできるかもしれません。

そうすると“薬局・薬剤師”側のスキルもとても重要になってくるわけです。

そこで現在、COVID-19の影響で遅れてはいるものの、薬局薬剤師を対象に、産婦人科医による集合研修が全国各地で実施されています。

オンライン診療により、以前よりは緊急避妊薬を手に入れやすくはなることが期待されています。(4)

 

「オンライン診療」には多くの問題が懸念される

 

しかし、このオンライン診療にも問題が指摘されています。

 

まずは「近隣の薬局を探してFaxを送ると言う医療機関側の手間」があります。
そして「薬局・薬剤師の対応スキル」と言う問題が存在します。

まず“手間”の問題。

純粋な意味で手間がかかると言う要素もあろうかと思います。
さらには、「医師が薬局を探してFaxを送り、さらに患者が薬剤を扱える薬局のある場所まで薬を受け取りに行く」と言うプロセスの間にも時間はどんどん過ぎてしまいます。

そして“スキル”の問題。

仮に薬が欲しいAさんが、産婦人科医にオンラインで診察を受けて緊急避妊薬を処方してもらったとしましょう。

Aさんがその時に居る地域で薬局を探した時に、しっかりとした研修を受けた薬剤師が働く薬局があるとは限りません。前述のようにこの薬は早く服用するほど効果が高い薬です。このような制度に対し、市民からも薬局で購入できるようにすべきだという署名活動が行われています。(5)

 

この2020年に始まったばかりのオンライン診療の方針に対し、今年2020年10月8日に内閣府から、薬局で薬剤師が対面で緊急避妊薬を処方箋なしで購入できるよう検討すると発表されたのです。(6)

 

次回のコラムでは、この問題を解決に誘うための薬局グループでのアプローチ、そしてその際の私たちの工夫について、皆さんと共有していければと思います。

 

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【岡田浩(おかだ・ひろし)】
薬剤師
京都大学大学院医学研究科特定講師
(社会健康医学系専攻健康情報学分野)

1990年、福岡教育大学卒業。1990年〜2001年、福岡県の小中学校講師、学習塾講師として勤務後、長崎大学薬学部に入学し、2005年に卒業して薬剤師の国家資格を取得。2014年まで内科クリニック、保険薬局で働きながら京都医療センターなどで慢性疾患における薬剤師の介入効果を研究し、2017年〜19年、カナダのアルバータ大学に留学。2019年に帰国し、現職。

著書に「行列ができる薬剤師3☆ファーマシストを目指せ(じほう、2013)、共著に「糖尿病薬物療法の管理」(南山堂、2010年)、「Community Pharmacy: International Comparison」(Nova Publishers、2016年)などがある。

 

参考

1.International Consortium for Emergency Contraception

https://www.cecinfo.org/country-by-country-information/status-availability-database/countries-with-non-prescription-access-to-ec/ (2020年12月6日アクセス)

2.World Health Organization (WHO): Emergency contraception

https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/emergency-contraception (2020年12月6日アクセス)

3.厚生労働省:オンライン診療で緊急避妊を行う場合の要件について

https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/000504415.pdf (2020年12月6日アクセス)

4.厚生労働省:緊急避妊に係る取組について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000186912_00002.html (2020年12月6日アクセス)

5.ピルコン:政策提言

https://pilcon.org/activities/advocacy (2020年12月6日アクセス)

6.共同通信社:緊急避妊薬、薬局で購入可能に 来年にも、望まない妊娠防ぐ(2020年10月7日)

https://news.yahoo.co.jp/articles/209bd372c140e309ae43f70376362f5043b4bd1a (2020年12月6日アクセス)

 

 

 

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