【連載Ⅱ】サードパス#003 EBMとNBM

【連載コラム】サードパス#003
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医療は何に基づいて実施されるのか

〜根拠に基づく医療と、「語り」に基づく医療〜

 


 

 

みなさん、EBMとNBMという言葉を聞いたことがありますか?

 

こんにちは!サードパスの大屋です!

 

第3回目の今回は、この「医療は何に基づいて行われるのか」をテーマに話題を提供させていただきます。

 

医療の世界で重要な考え方として、
「エビデンス・ベースド・メディスン(Evidence−Based Medicine:EBM)」
というものがあります。

「根拠に基づく医療」と訳され、医師の経験や勘に頼るのではなく、
科学的な根拠(エビデンス)のある治療を選択しようという姿勢です。

 

しかし一方で、エビデンスに基づいた合理的な治療選択をするだけでは、
必ずしも患者さんの満足度は高くならず、
安心感・納得感が得られていないという問題も見えてきました。

 

そのような医療者と患者さんとのギャップを埋めるために提唱されたのが、
「ナラティヴ・ベースド・メディスン(Narrative-based Medicine:NBM)」
の考え方です。

 

ナラティヴ(Narrative)とは、「物語」「語り」など様々な訳され方をしますが、
ここでは患者さんや家族が病気や経験について語ることを指します。

「ナラティヴに基づいた医療」とは、
このような語りに耳を傾け、その人が抱える課題を全人的に理解しようという姿勢です。
「ナラティヴ」を通して支援方法を見いだしていく試みの総称を
「ナラティヴ・アプローチ」と呼び、
医療以外にも対人支援の様々な分野で実践されています。

 

「ナラティヴ」はなぜ重要なのか、
「ナラティヴ」を聞くことで何が起こるのか…。

 

一般社団法人サードパス主催の学びの場「irori(いろり)」では、
「ナラティヴ・アプローチ」を専門に研究されている荒井浩道さんをゲストにお招きし、
ナラティヴ・アプローチの考え方から具体的な実践例までお伺いしましたので、
今回はその様子をレポートしたいと思います。

こちらではナラティヴ・アプローチの考え方のほんのさわりをご紹介する程度になりますので、ご興味を持たれた方はぜひ、荒井さんの著書『ナラティヴ・ソーシャルワーク―“〈支援〉しない支援”の方法』を読んで、理解を深めていただくことをオススメします!

 


 

物語を語りなおすと、何かが変わる

「ナラティヴ・アプローチ」が重要視するナラティヴ、すなわち「物語」「語り」「声」

ナラティヴ・アプローチの考え方では、
このナラティヴの中で「何が語られたか」だけではなく、
それが「どのように語られたか」、さらには「何が語られなかったか」にも注目します。

それは、「物語」そのものがある種の「構築性」「権力性」をはらんでいるからです。

物語の構築性や権力性って何?どういう意味?ってなりましたよね。

では、ちょっと具体的な例で考えてみましょう。

 

例えば、あなたが誰かに「最近どう?」と聞かれたとします。あなたは「絶好調だよ!」とか「うーん、ぼちぼちかなー」とか、時間があればあと一言二言、何か答えると思います。

でも、実際のあなたに最近起こった出来事は、
言葉で説明し切れないほど本当はいろいろあるはずです。

「仕事で昇進して良かった」「でも忙しくてちょっとしんどい」
「腰痛もひどい」「彼女ほしい」…などなど、いろいろなことをひっくるめて、
何かの「物語」を語ったとき、その後ろで必ず、その物語に都合の悪いエピソードは捨てられたり、都合良く意味づけられていたり。

悪意なく嘘が紛れ、何かを隠している状態が起こっています。
これが、物語の「構築性」「権力性」です。

 

ナラティヴ・アプローチでは、この考え方を踏まえ、
「困難を抱えている人」=「ダメな物語に飲み込まれそうになっている人」と捉えます。

例えば、「病気は辛い、もう死んだ方がいい」と言うような患者さんがいたとします。
この人は「早く死にたい」という物語に飲み込まれそうになっていますが、
そこには語られない「例外」の部分を見つけ(ユニークアウトカムの発見)、
「死にたい」物語ではない別の物語を分厚くしていく(オルタナティブ・ストーリーの強化)ことで、「死ななくてもいい」物語を生きられるようにするというのが、ナラティヴ・アプローチでの姿勢です。
実は宝くじを買っていて当たると良いなと思っているとか、
例外になり得る別の物語の糸口は必ずどこかに隠れているといいます。

 


 

ばいきんまんには、実は良いところがたくさん!

ここで、例外探しの練習ワークとして、参加者が取り組んだのが

「ばいきんまんの良いところ探し」。

皆さんご存知、「アンパンマン」に登場する悪役です。

 

ばいきんまんの良いところ、みなさんもちょっと考えてみてください。

 

iroriの会場で出ていたものでは、

「アンパンマンを倒すという目的を絶対にあきらめない(かなりの努力家)」
「ドキンちゃんに一途(片思いなのにすごく優しい)」
「挨拶をちゃんとする(ばいばいき~ん、ですね)」

などがありました。

アンパンマンの物語の中では悪い奴とされている彼ですが、
良いところをあげていくと、そこにはまた違った物語が立ち上がってきます。

参加者からは
「ばいきんまんと、友だちになりたい!」
「アンパンマンの方が毎回暴力で解決していて、実は悪い奴なんじゃないか」
などの声があがっていました。

このようなアプローチを、実際に対人支援として行う場合の流れをまとめると、以下のようになります。

 

1.無知の姿勢(当事者こそ専門家)をとる。

この「無知の姿勢(Not Knowing)」というのが超重要ポイント!
当事者(患者さんなど)は専門家(医師など)に比べ、知識もなく弱い立場なので、
専門家が何か言ったりアドバイスをすると、何も言えなくなってしまいます。
専門家が専門性を捨て、教えるのではなく教えてもらうという姿勢で向き合うことが、
語りを引き出すことに繋がるとのこと。

2.問題を外在化する(語ってもらい、整理して把握する)。

3.例外を発見する(先程のワーク)。

4.希望の物語を分厚くする(例外を具体的に聞いていく)。

5.希望の物語をより確かなものにする(肯定的に評価、複数人でシェアなど)。

 

 

ナラティヴ・アプローチの実践例いろいろ

 

最後に、いくつかナラティヴ・アプローチの臨床での実践例をご紹介いただきました。

実践の種類として挙げられたのはこちらの9種のアプローチ手法。

①ナラティヴセラピー
②コラボレイティヴ
③リフレクティング
④病いの語り
⑤ピアサポート
⑥当事者研究
⑦ヒューマンライブラリー
⑧ナラティヴ分析
⑨オープンダイアローグ

 

どれもそれぞれに特徴のある興味深い取り組みなので、
ぜひ単語を検索して概要を把握していただければと思いますが、
具体例を紹介いただいた中から、⑤ピアサポートの会話の例をご紹介します。

 


 

以下は、ある認知症介護家族会での会話の例です。

参加者は皆さん、認知症の方を介護されているご家族の方々です。

Gさん:

うちは年中,被害妄想。でも,身体はなんともない。でも認知症。辛いのは,すぐ
「おまえは策略家だ。俺を陥れようとしている,なんていう悪人だ」って言う。
「お前は敵だ」って,戦う気でいる。「俺は戦う.やってみせる」って.もう大変。
私がいけない、、とも思うこともある。たしかにそういう部分もある
でも私も一生懸命やっている。たまに,棒でひっぱたきたくなる(笑)

一同:(笑)

Gさん:

介護は,私が満たされていないから上手くできない。
でもときどき,ほんとひっぱたきたくなる(笑).

一同:(笑)

Gさん:

でも,(叩くことは)やってませんよ….

司会:

一度や二度はいい(笑)※あくまで冗談めかした発言

Gさん: 

そうですか(笑)

一同:(笑)

 

ここでお話をされているGさんも、介護家族の方です。
認知症の家族のことを「棒でひっぱたきたくなる」など、
内容としてはかなりシビアな辛さを表現されている語りですが、
その場にいる人が(笑)と笑ってくれたり、
司会の方が「一度や二度はいい」などと理解を示してくれることで、
Gさんも深刻になりすぎず、救われているように見えます。

このように、
当事者同士のピアサポートの場では、当事者と専門家との関係とは違った、
対等な関係性の中でのナラティヴ・アプローチが行われているそうです。

 

この回のirori全体を通して、
「ナラティヴ」に注目する上では、専門家の専門性がときに邪魔になるという可能性にも気付かされました。
荒井さんが「支援しない支援」と表現されるような、専門性をあえて捨てるコミュニケーションが有効な場面もあるということ、ぜひ少し心に留めておいていただければと思います。

 

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さて、一般社団法人サードパスでは【irori(いろり)】という多職種の医療関係者向けの“学びの場”を企画・実施しています。
この健康design studioでも連載を進めていきますが、ぜひホームページへのお立ち寄りいただけると嬉しいです。

一般社団法人サードパス http://3rdpath.org/

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