【短期連載】意識・行動変容研究における「工夫」の実態#01

 

【論文紹介】

日本の健康意識・行動変容に関わる研究においては
一体どんな工夫が行われているのか?

京都大学・アサヒ飲料の共同研究PJ2020

 

 


 

 

生活者や患者さんの「意識」や「行動」を
いかに理想的な方向に誘えるか。

 

こんにちわ。京都大学のかいだ です。
生活習慣病や感染症など、様々な健康問題が日々話題になっています。
健康実務家や研究者にとっては、とても大きな課題だと思います。
日々健康実務家の皆さんは、いろんな工夫をされているわけですよね。
その一方で、行動経済学とか仕掛け学とかナッジとか、色々とその実戦方法に関する理論やノウハウが世の中に出てきています。
実務レベルでは、上記のような理論やノウハウも色々活用されているんだと思います。
その中で一つの「問い」が出てきました。

日本の研究論文では、
 この意識・行動変容への介入の際、どんな工夫が行われているの?

日本にも世界にも、
生活者や患者さんの意識変容・行動変容をアウトカム(評価指標)として設定し
意識・行動変容に誘うための「施策・アプローチ(介入)」を企てて、
その「施策・アプローチ(介入)」の有効性を評価しようとする様々な研究があるわけです。
少なくとも、日本語の論文において、その工夫についてちゃんと調べて見たい。

そんな思いから、このプロジェクトは始まりました。

産学連携によるシステマティックレビュー
健康意識・行動変容に誘う「工夫の実態」を把握する

そこで、今回は一つの論文を紹介させていただきたいと思います。
タイトルは
日本国内の生活者を対象とした健康増進・疾病予防に関わる介入の実態
―医中誌webを用いたシステマティックレビュー―
この論文は2020年10月に発行された日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌-第11巻第2号に掲載されています。

医学研究者×マーケティング専門家という組み合わせ

この論文のひとつ面白いところは、ちょっと変わった組み合わせでの産学連携研究プロジェクトになっているところです。

医学研究分野を専門とする京都大学、マーケティング分野での意識行動変容デザインを事業で専門とするアサヒ飲料、同じく行動デザインの企画や分析を専門とする電通。この異色の3者による共同研究プロジェクト。
医学研究者はやはり研究デザインの設計や文献研究の推進など、やはりその分野における様々なノウハウを持っているわけです。
一方の民間企業。通常民間企業は、商品やサービスを開発製造して、それをお客様にお届けするための様々なマーケティング活動を行っています。健康に関わる意識行動変容の実態分析を文献研究で行う場合、医学領域の研究者のみのケースが多いのではないでしょうか。
ただ、今回は「意識変容行動変容に関する工夫の実態把握と考察」をしたかったわけです。
そうすると、この医療の専門家とマーケティングの専門家がタッグを組む事で、これまでにはない考察ができるのではないかと考えました。
それぞれに異なる視点からその分析と考察を行うことで、今までの研究には成し得なかった、重層的な解釈と提言ができるのではないかという思いからこのプロジェクトは始まりました。

明らかにしたかったこと
「実効性を高めるために、どんな工夫が行われているのか」

今回は日本の医学論文データベースである「医学中央雑誌」を用い、41編の論文を採択し研究アプローチと介入アプローチの分析を実施しました。
その41本の論文において、ターゲットの介入対象者の「意識・行動変容の結果」を最大化するためにどのようなアプローチが取られているかを分析。
ざっくり以下の4点でその傾向分析と考察を行っています。

分析論点(5W1H)

①直接介入者(WHO)
 :ターゲットへの介入は「誰が」直接的なプログラムを提供しているのか
②介入内容(WHAT)
 :介入プログラムとして、具体的に「何」を提供しているのか
③介入上の工夫(HOW)
 :ターゲットに介入する際にどんな「工夫」をしているのか
④介入の場所・時間(When/Where)

論文情報

http://healthcommunication.jp/journal/vol011no02/ja.html

日本国内の生活者を対象とした 健康増進・疾病予防に関わる介入の実態
―医中誌webを用いたシステマティックレビュー―
佐藤克彦1) 戒田信賢2)3) 大浦智子2)4) 太田はるか2) 中山寛子2) 森岡美帆5) 甲斐千晴3) 小柳仁3) 中山健夫2)
1)アサヒ飲料株式会社
2)京都大学大学院 医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野
3)株式会社電通
4)奈良学園大学保健医療学部
5)和歌山信愛女子短期大学
【目的】
日本国内で報告された地域における健康増進関連文献の研究デザイン、介入アプローチに関する全体的な実態を明らかとすることを目的とした。特に、健康意識・態度と健康に関する行動変容(健康増進・疾病予防に関わる行動の変容)に係る方略や手段など工夫(以下、工夫)の抽出を目的とした。
【方法】
文献検索には医学中央雑誌を用い、41編の論文を採択し研究アプローチと介入アプローチの分析を実施した。また、介入上の工夫の抽出とカテゴリー化、並びに、介入の質の高度化に向けた分析と、今後のさらなる産学官連携の展開余地についての考察を行った。
【結果】
研究デザインは、一群前後比較の研究が多く(15編)、アウトカムは、意識・態度変容のみが8編、健康に関する行動変容(健康増進・疾病予防に関わる行動の変容)を扱った研究が33編となった。また介入対象者を健康関心層に設定した研究が相対的に多かった(28編)。分析から、意識・態度と健康に関する行動変容(健康増進・疾病予防に関わる行動の変容)に係る工夫を77個抽出し、8のカテゴリーに整理した。
【まとめ】
意識・態度と健康に関する行動変容(健康増進・疾病予防に関わる行動の変容)を実効的に推進する介入施策の質の向上が必要な中、今後は無関心層や低関心層を対象とした研究の強化、5W1Hを起点とした実効性の高い介入施策のデザインと検証、そして有用なノウハウやアセットを持つ民間セクターとの積極的な連携が期待される。

最後に

どんなツールがあれば、もっとわかりやすく伝わるのか。
どんな工夫をすれば、もっと意識と行動を変えることができるのか。
どこで、いつ、誰が伝えたら、健康コミュニケーションはもっとも実効的に伝わるのか。
これらの問いに向き合っていくために、これから今の実態について
今後複数回に分けて、本研究の成果をご紹介していきたいと思います。

ご興味を持っていただけた方は、ぜひ一度本文もお読みいただければ嬉しいです。

 

筆者

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戒田信賢 Nobuyasu KAIDA

健康design studio編集長  (https://kenko-design.studio
京都大学大学院医学研究科 研究員(健康情報学)
慶應義塾大学SFC研究所 上席研究所員
株式会社電通 コミュニケーション・デザイナー

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