感染症疫学の専門家が伝える「新型コロナのいま」 〜寮生活を送る学生たちへのメッセージ 2021年1月
ジャーナリスト、キャスター、NPO、そして社会起業家として様々なチャレンジを続ける堀潤さん。
「つたえる」の専門家としてどのような未来づくりに挑戦しているのか、堀潤さんにお話を伺いました。
〜ジャーナリスト堀潤氏のチャレンジ〜
不幸に満ちた世の中を“発信”を通じて変えていく。
当事者意識、相手意識、そして連携
堀さん。テレビやネットで毎日のように活動を拝見しています。
堀さんの活動の内容を教えていただけますか?
僕がやっていることはとてもシンプルなんです。
世の中には、「報道として伝えられている情報」と、「報道として伝えられていない情報」の2つがあります。僕がやっているのは、「既存のメディアにはあまり取り上げられない情報、現場の状況」を世の中に伝えることなんです。
自分自身で取材するときは【ジャーナリスト】として仕事をしています。実際に現場に出向き、現場の状況を感じ、またそこに生きる人の話を伺い、その実態を発信しています。
そして「マスコミと市民の協業」、つまり当事者として情報を発信してくれる市民の皆さんと連携しながら新たなメディアを作るという試みを、8bit NEWSという【NPOの代表】として活動しています。
他にも、ニュース番組の【キャスター】であったり、【映画監督】であったり、最近は個展を開いたりと、様々なカタチで情報発信を行なっています。
最近では【ガーデン】という会社を仲間と立ち上げて、NPOやNGOといった“世の中の社会課題の解決のために頑張っている組織”の活動や思いを世の中に広めるためのプラットフォームをつくりました。
(参考)
8bitnews:パブリックアクセスの実現を目指す市民メディア http://8bitnews.org/
Garden Journalism:公益事業者の発信を支援 https://gardenjournalism.com/
やっていることがとても多岐に渡りますね。
なぜなら、それこそが、情報の多様性につながる! と思っているからなんです。
“つくりたい未来”はすごくシンプルなんです。
それは、困っている人をできるだけ多く救ってあげたい。道筋をつくりたい。
多くの課題認識を持っている人たちが、みんな“当事者意識”を持って支え合える未来をつくりたい。
【伝える人】が増えるということだけではなく、【当事者意識を持った人】が増えると、世の中は変わっていくと信じているんです。
【当事者】が情報を発信していくことに価値がある
でも「堀潤」というジャーナリストは僕一人しかいない。だからみんなの協力、みなさんとの協働が必要だと感じています。
いろんな問題を抱えている人たち、あるいはその問題に気付いた人たち。
そうした【当事者】のみなさんが、自分自身でその現場の状況を“発信”してくれたら、より多くの情報や現場の状況を世の中に広めることができますよね。
でも、そうした当事者の多くの皆さんは「情報を発信する場」を持ち合わせていないことが多い。だから、その当事者の皆さんが取材してくださった情報を、僕が携わらせてもらっているいろいろなメディアを使って発信していくことで、より多くの人に「世の中に流れることがなかった、今まで知らなかった情報」を知ってもらいたいと思い、活動をしています。いわば、「マスコミと市民の協業」をすすめてきました。
【当事者】という言葉が堀さんの一つのキーワードなのですね。
堀さんにとって、「つたえる」ことを通じて、「つたえたいこと」とはどんなことなんですか?
僕のメッセージは、とてもシンプルなんです。
“当事者意識”を持って「わたし “が” 、何をするのか」を考え、行動をとって欲しい。
例えば、政治の話はわかりやすいと思います。政治に対して文句をいう人は結構多くいると思うんです。
でも、「わたし“が”何をするのか」について語る人はまだまだそんなに多くないと感じています。
「当事者意識」というのは、今まで知らなかった情報に触れたときに、「わたし“が”何をするのか」を、当事者意識を持って考えて、自分ができる行動を具体的に行動すること。政治の問題でも、文句を言うだけでなく、自分なりにできるアクションはまだまだ沢山あると思うんですよね。
「わたし“が”」という当事者意識をもち、行動に変えることが、世の中を変えていく
国内外には様々な社会問題があります。ニュースを、物語やエンターテインメントとして“消費”するのでは、世の中変わらない。今まで触れたことのなかった情報や知らなかった現実を知った時に、「わたしは、現場に行ってみる」「わたしは、寄付をする」。
つまり「誰か」を主語に語るのでは無くて、「わたし」を主語に行動をとってくれる人が増えることが、社会課題をよりいっぱい解決していくためには、一番重要なことだと思うんです。
*****************************
なぜ堀さんはそれをやりたいと思ったんですか?
世の中が“不幸”に満ちているから。
ニュース現場にいると、傷つく人、悩む人、孤立する人がいっぱいいることがわかります。もちろん、僕自身もいろんな不安や孤立感を感じることはあるんです。
そして世の中にもいろんな問題がいっぱいあります。虐待問題であったり、難民問題であったり、世の中はいろんな問題や不幸が溢れている。
「社会が壊れていっているなぁ」と感じるんです。
世界に目を向けても、スーダンやシリアの問題、移民の問題や政治の問題でいろんなところに問題がある。誰かが「えいっ!」ってやれば世の中が良くなる、なんていうのはあり得ない話で。世の中の問題の火を消すために、みんながバケツリレーをできるような社会を作っていかないといけないと思うんです。
僕たちの仕事は、リレーを作っていくことを「促す」仕事。
不安や不満や不幸を具体的に解決する「仕組みづくり」は、その領域での強みや経験そして専門性などを持っている方々がやっていただいた方が良くて、「どこに」「誰が」「どんな不安や不幸」を持っているのかをつたえるのが、僕たちの役割だと思っているんです。
“発信”の方法は、いくらでもある。
不幸に満ちた世の中を、“発信”を通じて変えていく
その課題の渦中にある当事者も困っている。そのサポートをしている人たちも困っている。
その困っている人たちが「僕たち、私たち、困っているんです」というのを発信するようになってくれれば、そしてその発信に触れて現状を知ってくれる人が増えれば、具体的なアクションをしてくれる人が増えると信じています。その「知る」の総量を増やすために、僕たちはみんなが当事者意識を持って、「発信」の総量を増やすことにチャレンジしています。
発信者が増えれば、情報の多様性が生まれる。そして知ってくれる人が増えれば、解決のためのアクションも増えていくということですね。とてもわかりやすく意義あることだと思います。
その一方で、一つ質問があるのですが、当事者、つまり困っている人たちが、「困っている」ということを社会に発信できていない理由って、なんなんでしょうか。
僕は、“言語化”と“可視化・視覚化”というのが一つの大きなポイントだと考えてるんです。
心の中のことを可視化するのって、スキルがないと難しかったりするんです。僕のようなジャーナリストの強みは「共感を作るための、可視化」をすることなんです。テレビ局で番組を作る人たちも、広告代理店のコピーライターといった仕事をしている人たちも、そこにある混沌とした情報を言語化して可視化して共有化することが得意ですよね。
その一方、当事者の人たちは、“目の前の問題”で手いっぱいで、それを可視化する時間もない。情報発信する十分な時間も心のゆとりも持てなかったりしていると感じています。
問題の渦中の中にある人たちが、「言語化するチカラ」を身につけて発信できれば、一番いいですね。
もちろんそれもいいと思いますが、一方で、【気付いた人】が発信すればいいのではないですかね。気付いた人自身が【当事者】として発信してくれれば、いいと思うんです。渦中にある当事者の代わりに、取材して記事を発信するというのも一つのカタチですよね。でも別に記事を書くとかだけではなくて、“お支えする”のも発信だと思うんです。“寄付”をするのも発信の一つですし。嘆くだけで終わっていたら、何も変わらない。できることはいっぱいあるんです。
健康問題に取り組むNPOや行政の方々など、多くの実務家の方々が、この“発信”には苦労をしているんですよね。もちろん、先ほど話が出てきた「言語化」とか「可視化」というところにも時間がかけられなかったり、自信がもてなかったり。
こうした【『発信しなければ』と思っているんだけど発信できていない人】【発信しているんだけど、なかなか変化が実感できていないと感じている人】が世の中にはいっぱいいると思うんです。
こうした当事者の皆さんがもう一歩前に踏み出すには、どうしたら良いと思いますか?
「助けを乞うこと」がとても重要な第一歩だと考えているんです。
僕自身、いろいろなところで助けを求めて、支えてもらっています。(笑)
“今自分が困っていること”を改めて言語化してしっかりとつたえることが、全ての始まりだと思うんです。「あなたのチカラを欲しています」というのを言語化するだけなんですよ。
具体的な「助け」を伝えること、それが発信することの第一歩
そして、今困っていることや取り組んでいることについての“感情を共有”することや“共感を求める”ことは、それ自身価値はあるかもしれないけれど、「つたえる」という取り組みの本質ではないと思うんです。
「どんなことで助けて欲しいのか」「具体的にどんな行動を取って欲しいのか」。こうしたことをしっかりと「つたえる」ことが期待するアクションを生み出すことが本当に必要なことだと考えています。
僕自身もさまざまな実務をしている中で、「助けを乞う」ということをしっかりできていないのかもしれません。。「つたえている気」になってしまっていたり、ここまで現状を伝えればわかってくれるだろう、行動をとってくれるだろう、と思ってしまって、具体的に期待しているアクションを伝え切れていなかったり。うまく“甘えられていない”と反省します。。
長いこと伝えているつもりなのに、なかなか変化が起きなかったりすると、ちょっとした徒労感だったり、「なんでこんなに頑張っているのに、世の中はなかなか変わってくれないんだろう」ってちょっと辛くなったりすることもあるんです。
「変化はゆっくり起きる」と僕は思います。変化は確実に起きているんですよね。
変わらないことを嘆くのでは無く、小さなことでも「変わっていること」を実感しながら、大きなうねりを作っていくために、「続ける」ことがとても重要だと思うんです。
タバコの問題だって、この5年くらいで、ゆっくりかもしれませんが、確実に状況は変わってきていますよね。変化を実態として感じられないかも知れないけど、確実に変化は起きている。それを信じて、イメージを共有していく。そしてほぼ同時に世の中を変える機運を作っていくことも重要。「よくわかんないけど、変えていったほうがいいよね。あの問題、解決したほうがいいよね」という雰囲気を作っていくこともとても重要。世の中はそんなに悲観しなくても、変わっていく。だから、その変わっていくチカラを信じて、取り組み続けることが重要なんです。
ちょっと視点を変えてお話を伺いたいと思います。
この健康デザインスタジオの読者は、患者さんや生活者といった個人のターゲットに対して、健康に誘うための活動に挑戦している健康実務家の方々なのです。
マスに訴えるのではなく、個々人に「訴えかける」「つたえる」時のポイントって何かありますか?
僕の中のポイントは、これもとてもシンプルです。
「“つたえる”ことは、“聞くこと”」であると考えています。
「ネットワーキングの会合」とか想定すると、わかりやすいですよね。一方的に自分のことばっかり話す人に興味は持てないですよね。「ほんと帰ってくれないかな…」って感じですよね(笑)。
「ねぇねぇ、何考えてるの?どんなことに興味あるの?」って一生懸命話を聞いてくれたら、いっぺんに好きになっちゃう。一緒に考えてくれる人の話は聞きたくなると思うんです。
「あなたがやりたいことって何?」って一生懸命聞くんです。「どんな未来が見たいんですか?」って。
「つたえる」というのは「聞く」ということ
意外に、みんなそんなにしっかり話を聞いていないですよね?
こうするべきだ!ばっかりで。こうするべきだ!では人は動かないと思う。。専門家こそ、みなさんの要望に応えることができるスキルを持っている皆さんだからこそ、聞いて欲しい。
「つたえる、と、つたわる、は違う」とお話を聞いていて感じました。【伝えたい相手】の「話したい」とか「知りたい」にしっかり寄り添って、その相手の思いに対して「こちらが伝えたいこと」を繋ぎ合わせていくことで初めて、縦の糸と横の糸が合わさってくるような感じなんですね。
「つたえる」というのは、相手の状況をしっかりと理解した上で、その“伝えたい相手の持つ要望”に応えるためのアプローチとして「こちらの伝えたいこと」を提示していくという作業なんです。
「言語化する」って、「あなたが思っていることって、つまり●●ってことですよね?僕たちはそれに当てはまるこんな情報やアプローチを持っているんだけど、それってあなたの思いに当てはまりますか?」っていう作業なわけですよ。
かいださん。一つ質問があります!
インタビューするときに、僕が“成功”と考えることってなんだと思います?
気持ちよくしゃべれたなぁ、と思って帰ってくれること?
それをもう少し因数分解すると?
堀さんのインタビューを受けることを通じて「新しい気づきがあること」かな?
そうなんですよー!!
「なるほどね!堀さんと話をしていて、やっと自分がなんでそう考えていたかがわかったよ。今あなたが言ってくれたことを思ってたんだよ。自分が考えていたことをコトバにしてくれてありがとう!」。
これが、僕がインタビューしているときに大切にしている成果なんです。
“相手が考えている”と思うことを言葉にしてあげて、「それってこういうことですかね?」って確認していくこと。この作業がとても重要なんです。
相手の考えを言語化してあげて、その結果に対してアプローチを提示していく
違う成果としては、
「そのことについては、今までちゃんと考えて見たことはなかったけど、言われてみれば確かにそうかな。ありがとう。それは次の課題にするよ!」。
こういう気付きを話しをしている人が感じて、理解してくれた時に、「インタビューってうまくいったなぁ」と思うんですよね。
こういう対話をしないと、「つたえる」ための土壌ができないと思うんです。“伝えたいこと”や“相手が知るべきこと”を決めてかかって話をするのは、コミュニケーションじゃないよね。
そうですよね。それはコミュニケーションではなく、それだけだと単なるインフォメーションですよね。
コミュニケーションて、対話を通じて双方が“一緒時向かっていく方向”を共有していくことが必要で、単にインフォメーションを出すだけじゃダメだと僕も思うんです。
そうそう、そういうこと。健康デザインスタジオも、単なるインフォメーションの提供じゃなくて、受け手である健康実務家の皆さんとコミュニケーションをしていかないといけないと思います。専門家が枠を超えて、立場を超えてコミュニケーションをしていくことで、新しい気づきを得ていく場にしていかないといけない。
はい!頑張ります!!
専門家って、伝えたいインフォメーションを提供してしまって満足してしまうことが多いのではないか?と感じているんですよね。僕たちも健康デザインスタジオ、スタジオってしたのは、立場を超えて、専門家も違い業界や領域の専門家も、そして当事者も、一緒になってコミュニケーションを取りながら、「こうしたらいいんじゃないかな?!」っていうのを一緒に考えていく場を作りたかったんですよ。
*****************************
いま伺った「つたえる、ということは、聞く、ということ」というお話は、「つたえる」という活動の中に必要なとても重要なプロセスだと思います。そのプロセスを進めていくときに、堀さんはどんなことを心がけているんですか?
つたえるコツ、言い方を変えると、コミュニケーションをする時のコツは、めちゃくちゃシンプル。
まず1つ目は、「要は、一言で言うとなんなの?」を自分の言葉でシンプルに言語化できているか、なんです。質問にちゃんと応えていない人が9割なんですって、NHK放送文化研究所の調査によると。
例えば、「あなたが見たい未来はなんですか?」って聞くと、「いやね、私ね、そもそもね、・・・・」って語り始めたりしちゃう人が多いんですよね。でも質問に答えてないですよね。(笑)
「シンプルに言語化できるかどうか」が、コミュニケーションの質を高める
「幸せに満ちた社会なんです」みたいに、しっかりと自分の答えをシンプルに話すことから始められること。これがとても重要だと思います。
でも「もわーっ」としたモノを抱えながら、“オピニオン”が先行してしまう人が多いって言う実感を持っているんです。シンプルに問いに答えて、「なぜなら、、、」ってストーリーを繋げていくのが、つたえるコツだと思うんです。
もう一つはなんですか?
もう一つは「相手意識」。
コミュニケーションをするときに、「頭の半分・自分のこと」、「頭の半分・相手のこと」を考えながら話をする、と言うことなんです。自分自身が「つたえる」という作業をしているときに、「相手はこんなことを感じ、考えているんじゃないか?」って意識を巡らせることがとても重要なんです。
「相手意識」を持つと、優しくなれる。選択肢が増える。
さっきの「ネットワーク会合」の話でも、「俺ね!俺ね!」の人って、この“相手意識”がないから、伝えている相手の心がどんどん離れて行ってしまっていることに気づけないんですよね。それを察知せずに語っちゃうと、どんどん独りよがりになるし、相手のニーズに応えられないし、共感も共有もできない。
僕がテレビみたいなマスメディアでお話させてもらうときも、取材などで個人の方と一対一でお話する時も、「これを聞いてくれている人はどう考えてるんだろう?」を常に考えているんです。
何か自分なりの“意見”を話すときも、「“反対意見”を持っている人は、何を感じながらこの話を聞いているんだろうな?」を同時に考えながら話すわけです。
そうすると言葉の選び方も変わるし、多角的になる。慮りも生まれるし、優しくもなれるし、寛容にもなれる。
それは自分の視野も広げてくれるし、最終的にはいろんな選択肢を残してくれることになる。相手意識があることによって。
すごく現実的な話なんですが、医療や介護など健康実務、特に臨床の現場では、なかなか時間が限られてしまうこともあると思うんです。例えば、一人当たり10分くらいしか取れないなぁ、と。
「相手意識」を持つことの重要性を理解した上で、でも現実問題それを遣り切ってしまうと、全てが回らなくなってしまう、と言う実務家の人もいるんと思うんですよね。
患者さんや向き合っている方もわからないこと、不安なことだらけで、相手の思考に思いを巡らせすぎると、どうしたって時間が足りない。スピード感をその実務の中で持つ方法はあるんでしょうかね。
その解決策が、NHKを辞める選択だったんです。“危機意識”を持って伝えないといけないけど、NHKで「一人」でやっても無理がある。だから「チーム」が必要だと思ったんです。テレビで言えないことはラジオでいえばいいし、ラジオでもいえないことはウェブに書けばいいし。ウェブでも伝わらなければ、リアルイベントやSNSで伝えればいい。
場の話だけじゃなくて、デザイナーやアーティストや、それを伝えるためのメンバーにはいろんな仲間がいたほうがいいよね、って。いろんな専門家を集めてチームをつくることで、伝えることの質を高めることができればいいと思ったんです。
健康実務の現場で、時間が足りないと思ったときには、チームを作ればいいんですよ。
臨床の現場だけで対応しようと思う必要はないということですか?
NPOで同じ課題と向き合う人たちもいっぱいいると思います。ウェブを作れる人もいると思います。同じ課題認識を持って連携してくれる仲間を集めることができれば、その「時間のなさ」は解決できると思います。
さっき言った「助けを乞う力」がとても重要で、「目標」を掲げて、「やらないといけないこと」を整理して、それぞれをやるのは誰って言う「役割分担」を決めて。そう言う風にできればいいと思うんです。
「前に進む方法」を考えて、それこそ「言語化」して、「共有」して、「連帯」する。
健康業界にはセクショナリズムがあるのかもしれない。既得権もあるのかもしれない。チームをつくることを阻む何かが色々あるのかもしれない。でも、いよいよ「背に腹は変えられない」状況なんですよね。そう言うのは取っ払って行きましょうよ。
政治の世界でも、ソーシャルグッドな世界でも、もちろんビジネスの世界でも、そうした連携型のプロジェクトが多く生まれてきているわけです。
連携できる仲間たちと一緒に、棚卸しして、課題意識を共有して、「進まない理由」を並べるのではなく、「前に進む方法」を考えて、それこそ「言語化」して、「共有」して、「連帯」する。
NHKを辞めてもう何年も経ちますが、自分の中の手応えとしてと思うのは、それまで反目してたと思うプレイヤーが、今は共存していたりするわけですよ。テレビとインターネットはお互いが脅かし合うもの、と言うのがあったんですが、「一緒にやればいいじゃん!」って言う風に変わってきている。インターネットとウェブの人の関係も変わってきているんです。
個人的な印象なんですが、堀さんの魅力って、「求心力」「仲間を増やす力」「甘える力」そして「笑顔」が最大の強みだと思っているんです(笑)。そのチカラがチームを作るというのはとても重要だと常々重要だと思っているんです。
困っていることを、勇気を持って、自己開示できることがとても重要なんだと思います。
「こんなんじゃない。」って自分の弱さを隠してしまうのが人間だと思うんです。でも「誰かを信頼することができれば、もっとできることはあるはず」とも思うんです。
例えば、貧困問題に苦しんでいる当事者の方々が、行政サービスがあるのに受けにいけない。これはその当事者の方々が、行政の窓口に行くと「怒られるんじゃないか」とか「ちゃんとやってくれないんじゃないか」って恐怖心や不信感っていうのが原因にあると、言われていますよね。
「そうじゃないよ!何言ったっていいんだよ」「怒りも否定もしない。だから言えるようにしようよ!」というのが大切なメッセージ。「どうしていいかわかんない」って言ってくれれば、言うことができれば、必ず救援はくると僕は思います。
お医者さんとか弁護士さんとか、「先生」と呼ばれる人たちも、一緒に課題を解決するために「患者さんに甘える」っていう考え方もあるのでしょうか?
患者さんに甘える、というより、「患者さんに甘えさせる技術」を先生が身につけるのが早いと思います。頼ってもらえるような状況を作ることがとても重要だと思うんです。
「・・しましょう」「・・しなきゃダメですよ」って言われると、患者さんの気持ちは離れて行きますよね。「僕さ、医者なのにさ、タバコやめられなかったんだよね。ダメなやつなんだよー。こんな僕でもやめられたんだから、一緒にやってみない?」って実務家の方から歩み寄ると、相手も絶対に心が開きますよね。「先生にもそんなことあるんですか!!? 知識もあって、技術もあるのに〜??」って。
専門家の方から、実務家の方から「歩み寄る」方が連携づくりには重要だと思うんです。
甘えさせる方法、本音を聞き出す方法、って何か堀さん的なコツがあるんですかね。
「フラット」であることが全てだと思います。へりくだるわけじゃないです。実務家側が「業界」を囲わないこと。その向き合っている人のスキルを信じる、ということがフラットな関係性を作る上で、一番大切なことだと考えているんです。
健康の問題だと、実務家と患者さん・生活者との関係は、“医学”に詳しい人と詳しくない人、という関係性が前提になってしまいがちになって、上下関係ができてしまう。これって違いますよね?
この患者さんを当事者と捉えたときに、この人との関係性の中で新たな気づきがあるかもしれない、と思ったときに、関係性はフラットになる。そういう意識を設定するのは、専門家側の方だと思う。
******
堀潤さん。
とても丁寧に、言葉を選びながら、
堀さんのビジョンと「つたえる」にかける思いと熱量を語ってくださいました。
また今度、異なるテーマでお話を伺えたらと思います。
本当にありがとうございました。
聞き手&文:戒田信賢