【連載Ⅱ】サードパス#001 「デザイン思考×ヘルスケアデザイン」

【連載コラム】サードパス#001
#デザイン思考 #超高齢社会

“Design Thinking をヘルスケアデザインにつかってみる”

 

「Design Thinking(デザイン思考)」って、最近なんとなくよく耳にしませんか?

 

ヘルスケアの領域でも、業界をまたいでいろいろなキーワードを聞くようになってきました。

その代表格のうちのひとつ。「デザインシンキング」という言葉も、なにかと耳にするわけです。

 

でも、「これからはDesign Thinkingが必要だ!」なんて言われても、具体的に何をどうすればいいんでしょうか。

そもそも「デザイン」という言葉自体がふわっとしているし。
(このサイトもdesignをテーマにしていますが・・)

デザインってデザイナーさんの仕事じゃないの?とか、
なんとなくカッコよさげだけど実際効果があるの?とか。

いろいろわからないことだらけです。

 

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さて、一般社団法人サードパスでは【irori(いろり)】という多職種の医療関係者向けの“学びの場”を企画・実施しています。
この健康design studioでも連載を進めていきますが、ぜひホームページへのお立ち寄りいただけると嬉しいです。
(一般社団法人サードパス http://3rdpath.org/)

今回は、このiroriで企画・実施されたdesign thinkingに関するワークショップについてご紹介していきます。

 


 

今回は、長年デザインの視点から医療介護の問題に取り組んでこられた阿久津靖子さんに、
「Design Thinking」の考え方と実例を教えてもらうべく、ミニレクチャー付きワークショップを企画しました。

 

この阿久津さん、
製品開発のための基礎研究・デザインマーケティング・街づくりの基本計画に携わるところからキャリアをスタート。

現在は、ヘルスケアに特化したデザインリサーチファームの代表や、
Aging 2.0東京チャプターアンバサダーなどを務められています。

 

デザイン思考って何だろう?

まずは、「そもそもDesign Thinkingでどんなことができるの?」というところから、お話はスタート。

医療機器ってとても無機質なイメージがありますよね。
その”無機質”にデザイン思考を取り入れることでなにが生み出されるのか。

ここでは、例えば「小児病棟の検査室」に「海賊船のデザイン」を取り入れるとどうなるか?
という事例を紹介いただきながら、

どのようにワクワクするような変化が起こって行ったのかというお話をしてくださいました。

 

一般的に、デザイン思考というと出てくるのは、5つのプロセス。

「Empathize(共感)」
「Define(問題定義)」
「Ideate(創造)」
「Prototype(試作)」
「Test(検証)」    の流れです。

このデザイン思考、医療の世界では、「医療機器開発のためのプログラム」にその考え方が活用されています。

その中で有名なのが、スタンフォード大学の「Biodesign program」。
日本でも多くの医工連携を行う大学で取り入れられ始めています。

ちなみに、このスタンフォードのプログラムでは、
コンセプトプランニング前の「Identify(観察)」と「Invent(考察)」、
そして実行するための「Implement(事業化)」の3つのプロセスを重視しています。

 

「人間中心」に考えていく

上記のどちらにも共通して重要なポイントとされているのは、スタート部分です。

デザイン思考の「Empathize(共感)」。
Biodesign programの「Identify(観察)」。

共通する部分は、そのターゲットとなる人間に深く焦点を絞っているところにあるわけです。

 

健康の世界では、患者さんや生活者によってニーズが違うわけですよね。
さらには「患者さん・生活者」と「医療従事者」の間でも考え方や価値観が異なるわけです。

「○○先生が欲しいといったから」だけでサービスを考えてしまってはだめで、
時には患者の希望と医師の希望がコンフリクトを起こすようなことも出てきます。

そうすると、お互いに「観察」などのプロセスを通じて相互に理解し合い
それぞれが「共感」し合うことが大切になるといいます。

 

お互いのことを理解し合いながら、適切な企画や活動を展開していくにあたっては、
時間軸・地域軸、思い与件・技術与件など、様々な視点をもっておく必要があるというお話でした。

 

 

課題を明確にする「ニーズステートメント」というアプローチ

ここで、課題を明確にする手法として「ニーズステートメント」というものを教えてもらいました。

ニーズステートメントは
「People(誰が)」、
「Outcome(何をする)」、
その障害となっている「Problem(課題)」の3要素にわけ、客観的に課題を出していきます。

 

例えば、とある小児科医が課題整理に取り組みました。
このニーズステートメントを活用すると、下記のようになります。

まず要素分けです。

「新生児」が(People)
「出生直後の死亡が高い」(Outcome)
「その死亡原因は感染症」(Problem)

次に、ステートメント化をしてみます。

「新生児が感染症によって出生直後の死亡率が高い」
という(People)(Outcome)(Problem)を含んだステートメントとして表現されます。

 

一見、とてもシンプルなものですが、このpeople/outcome/problemの3要素に絞り込むだけで
必要な要素で、シンプルかつ、わかりやすく現在認識されている「課題」を言語化する事ができます。

ちなみに、この段階では「課題解決」についてはまだ考えません。

 

要素を具体化していく事で、「ニーズ」が明確になっていく

このニーズステートメントのそれぞれの要素を、どんどん具体化していくことで、
満たすべきニーズが明確になっていきます。

先程の文章を具体化しながら肉付けしていくことで、より具体的な課題を共有することが可能になるわけです。

  • 医療施設の整っていない場所で生まれた新生児が(People)
  • 出生直後の感染症による死亡率が高い(Outcome)。
  • それは出生直後から体を温める方法がなく感染症にかかりやすいためだ(Problem)。

 


 

ワークショップ

考え方を学んだところで、次はいよいよ実践です!
ワークショップでは、みんなでニーズステートメントを実際に書いてみることになりました。 

ニーズステートメントを考えてみる上で、テーマに選ばれたのは、
高齢社会においてこれから増えそうなこの問題。「男おひとりさまの老後課題」。

参加者は、幅広い年齢層。リアルなインサイトを持っている団塊世代の参加者も。
医療従事者から福祉関係者、医療系企業会社員、健保組合勤務、広告代理店勤務、デザイナーまで幅広く、視点も様々。

団塊世代で、仕事は既にリタイアしたような年代の「一人暮らし男性(people)」を想定して、

  • この層が今どのような課題を抱えているか、
  • その現状に対してどのようなアウトカムを目指したいか、

などなど、グループごとに話し合いました。

 

具体的なイメージを深めていくと、
「昼のスーパーで、一人で弁当を買っている(さみしい…)」
「話し相手がおらず、頼れるのは親戚くらい(つらい…)」
「働く場所と住む場所が違い、地域コミュニティとの関係が薄い(これは参加者の実体験とのこと…)」

などなど、なんとかしたい現状(People)がどんどん出てきました。

こうした人に対して、例えば「精神的な支えがない(Outcome)、他者との繋がりをつくる方法が必要(Problem)」などと定義すると、そこから具体化していくことができます。

 

短い時間で深掘りまではできませんでしたが、ニーズステートメントのアプローチを活用することで、
Design Thinkingのコツや視点を感じることができました。

ぜひ皆さんも、ご自身の向き合うテーマについて、ニーズステートメントを書いてみてください。

 


【事例紹介】海外に見る、高齢社会の地域デザイン

最後に、アメリカやデンマークの事例から、高齢者が地域で暮らしやすくなるために、どのようなデザインが取り入れられているのかという具体例を教えてもらいました。歩行をサポートするスーツから、高齢者の行動範囲を広げてくれる地域バスまで、面白くて役立つ取り組みがいろいろあることを知りました。

 

一方で、アメリカやヨーロッパのように一人暮らしでも大丈夫な文化の国と、日本などアジアの家族がサポートして当たり前という文化の国とでは、同じサービスではうまくいかない部分も出てきそうな気がします。

 

日本の医療においても、もっとDesign Thinkingの考え方を活用して、
地域やそこに住む人々を中心に考えたサービスを作っていく必要があると感じました。

レクチャーいただいた阿久津さん。

今年から千葉大学の地域医療連携部で医療イノベーション人材育成にも関わられており、
そちらの活動にも注目です!

ぜひAging Japanの取り組みについても、見てみてください!!
(Aging Japan https://agingjapan.org/)

 

一般社団法人サードパス http://3rdpath.org/

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