【連載 Ⅰ 】”企画”するということ#005

【連載】「企画する」ということ #005

「企てる醍醐味」Vol.2

 〜「正しい情報」は「正しい行動」を促す?

 

三行で言うと?

  ① 正しい情報を適切に伝えれば、行動に移してくれるというのは思い込み。
  ②いいことづくしの「企画」なのに、うまくいかないことたくさん。
  ③人は、「得する」ことよりも「損しない」ことの方を優先する。

 


 

正しい情報を適切に伝えれば、行動に移してくれるというのは思い込み。

皆さん、おはようございます。プランニングディレクターのK一郎です!

連載「企画」の2回目ですね。よろしくお願いします。

 

前回、「適切な課題の設定」が一番大切であることや、正しい情報が理想の行動に誘うとは限らない
というお話をしました。

今回は、頭で理解すること(=意識)と、行動の間には大きなギャップがあること
について掘り下げて考えてみたいと思います。

いくつか具体事例をもとに考えてみましょう。

以下のようなキャンペーン、見かけたことがあると思います。

 

「エコドライブを心がけよう」
「選挙に行こう」
「歩きスマホはやめよう」
「健康診断の定期的な受診を」

 

いずれも、発信しているメッセージは正しいことばかり。否定する要素はありません。

環境保全、良い社会創造、安全確保、健康維持など、

目指す理想の状態も、誰もが求めたいことでしょう。

 

ですが、こういった類のキャンペーンで成功した事例は、
私の思いつく限りでは「COOLBIZ」以外はありません。

成功した理由は次回お話ししますが、失敗が多いのはなぜでしょうか。

 


いいことづくしの「企画」なのに、うまくいかないことたくさん。

「健康ポイント」といった類の企画を見聞きしたことありませんか?

スポーツやトレーニングなど、「健康増進の活動をするほどポイントが貯まり特典と交換できる」
というのが、おおむね共通するスキームです。

この企画を行う目的は、「健康な人を増やすこと」です。
それにより「医療費が抑制される」、これが「理想の状態」です。

健康になったうえ、特典ももらえるという、
参加者にとってはまさに “いいことづくしの企画” なのですが、

主催者が意図したほどの成果が得られておりません。

 

私なりの分析ですが、
今や至るところで導入されている「ポイント」というインセンティブは、
ある種の共通言語として “いいことありそう”な イメージが浮かびます。

スーパーマーケットでレジに並ぶ奥さんに向かって
「俺ポイントカード持ってるぞ!」と遠くから走ってくるお父さんを時々見かけますが、
それだけ強く人を動かす仕組みが、先の「健康ポイント」で機能しないのです。
なぜならば、ポイントという制度は主に、「損失回避」の動機に働くからです。

 

本来、このプログラムに参加して欲しいのは、
【普段運動もせず健康生活とは遠い人たち】

ですが、肝心のメインターゲットの方々は、ポイントインセンティブでは動かず、
【普段から運動習慣がある方々】が、
これなら一石二鳥と、こぞって参加をしたのです。

 


人は、「得する」ことよりも「損しない」ことの方を優先する。

近年、行動経済学が注目されていますよね。

これは経済学が「人間は合理的な行動をとる」ことを前提とした学問であることに対して、

いわば感情に着目し、
「必ずしも人間の行動は合理的でないこと、寧ろ不合理が多いこと」を証明しています。

 

ここでみなさんにお聞きします。
以下のケースⅠ・Ⅱを見て、どちらを選びますか。

 

******

<ケースⅠ>
A.無条件で10万円もらえる。
B.コイントスをして、表が出たら20万円もらえるが、裏が出たら何ももらえない。
<ケースⅡ>
A.無条件で10万円支払う。
B.コイントスをして、表が出たら支払いゼロだが、裏が出たら20万円支払う。

 

 

いかがですか?

 

ケースⅠではAを、

ケースⅡではBを選ぶ方が多かったのではないでしょうか。

経済学では、いずれもBを選択することが合理的だそうです(効用の最大化を目指す)。

ですが、実際の行動は、得をすることより損をしないことの方に意識が強く働きます。

これは、はるか昔狩猟生活をしたい頃にDNAとして刻み込まれた
「危険回避」行動によるものとされています。

いつ何時、獰猛な動物に襲われたり、
食料がいつ手に入るか分からない状況下で体得した本能に近いものではないでしょうか。

 

最後に、有名な行動経済学者の一節を引用して、本稿を締めたいと思います。

「人は効用を最大化するより、後悔を最小化したいのだ」

(ダニエル・カーネマン)

 

 

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