健康デザイン論

〜健康に誘うコミュニケーション・デザイン〜

第0章1

はじめに なぜこの連載を始めたのか
  • 私たちは本当に「健康」に誘うことができているだろうか
  • 「健康をつくる」実務家が “領域” を超え “協働” で目指す未来
  • 「健康をつくる」仲間として、知恵を、工夫を、アイデアを、共有していく
  • 私たちは本当に「健康」に誘うことができているだろうか
  • 「健康をつくる」実務家が “領域” を超え “協働” で目指す未来
  • 「健康をつくる」仲間として、知恵を、工夫を、アイデアを、共有していく

わたしたち”健康実務家”は、わたしたちが向き合う患者さんや生活者を
本当に健康に誘うことができているのだろうか。

この連載に目を留めて下さった読者の方は、医療や保健、福祉、介護、子育て支援などさまざまな領域の中で、そのターゲットとなる生活者や患者の方々を「健康」にするための実務に日々尽力されている方々、あるいはそうした実務家になるために勉強をされている方々だと思います。

研究や臨床といった専門家、公的サービスを担う行政の方、NPO/NGOや企業などの民間活動団体、あるいは個人や学生さんなど、多岐にわたる立場のみなさまがこの連載のテーマに関心を持ってくださったとしたらとてもうれしいです。

どのような立場であれ、「向き合う生活者や患者さんをより健康にしたい。」「より多くの生活者のみなさんを健康に誘いたい。」という思いは、実務家の共通した理想像であり、日々の業務や活動に尽力されていることと思います。

「臨床家」の皆さんは日々患者さんやサービス利用者の方々と向き合い、その病状や症状が少しでも改善すること、あるいは現在の状況を維持しより健やかな暮らしを実現できるよう様々な実務に取り組まれているかと思います。「NPO」や「行政」の皆様も、より多くの生活者の方々が健康な生活や暮らしを実現できるように、地域を一つの拠点としながら、生活者の暮らしに思いを馳せながら地道な努力をされています。「企業」の皆さんも、自社の商品やサービスを活かして、どうしたらもっと健康的な生活を実現できるかという問いの元、チャレンジをし続けていらっしゃると思います。

みなさんの努力は、もちろん、一定の成果をあげ、生活者の暮らしの中の不安や不都合を解消し、より健やかな暮らしづくりに大きく寄与しているわけです。

そこで敢えて問いたいと思います。

「わたしたちは、私たちが期待するレベルで、
そして患者・生活者のみなさんが納得するレベルで
健康という「結果」に誘うことができているのでしょうか」

答えはおそらく「Yes」である一方、「No」でもあると思います。

「医療資源が枯渇している」「健康資源が偏在している」。こうした様々な状況や問題がある中で、実務家の皆さんのたゆまぬ努力の結果として、多くの“健康”が実現できていることは紛れのない事実です。その一方で、多くの実務家の方々からこんなお話を聞く機会が増えてきていると感じています。

「経験はある。勉強もしているつもり。だから間違ってはいないと思うのだけど。でも惰性で動いてしまっているかも。」
「もっとやり方があるのではないか。違う業界にはもっといいヤリクチがあるのでは?もっと成果を出せるのではないか」
「ルーティーンに追われすぎていて、実務の質を高めるための方法をインプットしたいとずっと思っていた」
「成果が出てるのに、満足度がいまいち高くないように感じる。なぜ?」

時に日々の業務に追われすぎて、その業務をこなすことが目的化してしまうこともあるでしょう。それは実務家本人も望むところではないし、サービスを受ける患者さんや生活者の方々にとっても喜ばしいことではありません。

はたまた、全身全霊をかけて取り組んだ活動であるにも関わらず、十分な成果を得ることができなかった。あるいは実感することができなかった。という経験をされている方々も多いかと思います。

こうした課題認識は決して健康に携わる実務家だけではなく、ビジネスや勉学、そしてイチ生活者としての日々の暮らしにおいてもまったく同じような課題に遭遇することはよくあることで、とても健全な課題認識なのではないかと思うのです。

「健康をつくる」実務家が “領域” を超え “協働” で目指す未来

わたしたちは「健康をデザインする」をテーマにヘルスコミュニケーションの共同プロジェクトを始めました。

世の中には様々な健康課題が存在しています。こうした健康課題を解決し、より潤いある生活や暮らしを実現するために、どうしたらもっといい方法をつくることができるだろうか。

どのような立場であれ、「向き合う生活者や患者さんをより健康にしたい。」「より多くの生活者のみなさんを健康に誘いたい。」という思いはみなさん共通した理想像である。これは前述の通りで、立場を超えて協力しあってその方法を模索して行く必要があると考えていたわけです。

この共同プロジェクトは、健康情報を「つくる」専門家である研究機関と、情報や商品・サービスをターゲットに届け理想的な行動に誘う「つたえる」専門家であるコミュニケーションデザイン企業の共同で始まりました。

京都大学医学研究科健康情報学分野と株式会社電通。この健康情報をつくる専門家である健康情報学とメッセージをつたえる専門家である電通は、一つの考え方を共有したところからこのプロジェクトを発案しました。
それは、どんなにいい情報や商品サービスを作ったとしても、どんなに素敵な方法でそのメッセージを伝えたとしても、その情報やメッセージの受け手である生活者の方々に、ちゃんと理解して、行動してもらえなければ、その結果として理想とする健康に誘うことができていなければ、私たちがやっていることは何の価値も持たない。
それであれば、「つくる専門家」と「つたえる専門家」は「つかってもらう」を起点にもっと協力していかなければならないのではないか。

コンセプトは
創りたい未来はだいたいみんな、おんなじ。だったら創りたい未来は、みんなで創る。

この健康design studioは、領域や立場を超えて、健康な未来を創っていくための知恵やアイデアを共有し新たなアプローチをともに考えていくことを一番の目的としています。

同じ健康実務家の中であっても、その経験やノウハウはなかなか共有されていないのではないでしょうか?健康をつくっていく同じ志を持ちながら、業界を超えてしまうと、その経験やノウハウを共有することはもっと難しいことだと思います。この壁を超えて、より良い未来を実現していくプラットフォームが必要なのではないか。そうした課題認識から私たちは以下の3つを最大の目標として設定し、この健康design studioを立ち上げました。

◆経験を共有すること
◆知恵を統合すること
◆解決に向けたアイデアを共創すること

「健康」という言葉は、取扱テーマを“医療”に限らず“福祉”や“介護”“子育て”など健康にまつわるより多くの領域をカバーしながら、みんなでその悩みや考え方、アプローチそして知恵を共有できるようにするために、より広範なキーワードとして設定しました。

次に「デザインスタジオ」という言葉。私たちの取り組むテーマは、みなさんが日々苦心されている通り、一定の知識を使ったり、既存の手法論を学び適用すれば「確実に期待する成果が実現できる」ようなものではないわけです。その中で、私たち実務家は、その「つくり方」であったり「つたえ方」そして「つかってもらい方」に知恵を絞りそのやり方を考えるわけです。つまり、我々はみんなそのテーマについてターゲットを健康に誘うための「仕掛けを考えるデザイナー」なのであり、「ターゲットに成果を出してもらう企画屋」であるという前提に立っています。その上で、受動的に知識をインプットするだけでなく、能動的に知恵を共有し、自らの企画に活かしていけるような、双方向型のアクティブな共創の場を創りたい。その想いから「デザインスタジオ」という名称にしました。

「健康をつくる」仲間として、知恵を、工夫を、アイデアを、共有していく

今一度、わたしたちはなぜ今の実務をしているのか、勉強をしているのか、その本来的な目的意識に立ち返りたいと思います。
私たちのミッションは、「保健・医療・福祉というそれぞれが向き合う領域で、生活者・患者・社会を健康に誘うこと」に尽きるのではないでしょうか。

その中で、読んでいただけたら嬉しいな、一緒に創っていって欲しいな、と想定している方々は以下のような皆さん。
・保健医療福祉分野の課題解決に向けた研究者
・患者さんの個別具体的な症状や課題と向き合う臨床家
・健康に関連する課題を持つ市民をサポートするNPO
・健康をテーマにした商品・サービスを提供する企業

このミッションを自らの活動に当てはめ、その実現に向けて、自らの活動をより実効的にデザインできるようにするための大きなガイドを提示することができたらとてもうれしいです。

  • 私たちは本当に「健康」に誘うことができているだろうか
  • 「健康をつくる」実務家が “領域” を超え “協働” で目指す未来
  • 「健康をつくる」仲間として、知恵を、工夫を、アイデアを、共有していく