健康デザイン論

〜健康に誘うコミュニケーション・デザイン〜

第1章1

健康デザイン概論 第1節 世の中にはさまざまな健康関連課題が存在する
  • さまざまに存在する健康課題解決に向けて、多くの健康実務家が弛まぬ努力をしている
  • 健康実務の根幹は、ターゲットに“理解”と“行動”を促し、理想的な結果に誘うこと
  • どうしたら理解し、期待する行動を取ってくれるかを企てることが「健康デザイン」
  • さまざまに存在する健康課題解決に向けて、多くの健康実務家が弛まぬ努力をしている
  • 健康実務の根幹は、ターゲットに“理解”と“行動”を促し、理想的な結果に誘うこと
  • どうしたら理解し、期待する行動を取ってくれるかを企てることが「健康デザイン」

さまざまに存在する健康課題解決に向けて、多くの健康実務家が弛まぬ努力をしている

健康問題に取り組むみなさんにはまさに「釈迦に説法」ですが、世の中には様々な健康問題が存在します。
生活者に関する健康課題を例にあげれば、
[喫煙問題]や、[コンドーム未使用]、生活習慣病の原因となる食や運動そして睡眠に関する問題など。
疾患の治療についてのものから、予防に関する課題、あるいは、医療にとどまらず、福祉や保健、子育てにまつわるものまで、生活者を取り巻く健康関連課題は山ほどあるわけです。

また、健康従事者間の問題もあります。
昔から言われている[医師患者関係]の良好な構築や[チーム医療]の実現、さらには[診療ガイドラインの有効活用]など、
実効的な運用を進めることができれば有益な健康づくりに寄与するはずのものが、なかなかうまいこと実現できていないという問題も健康関連課題ということができるでしょう。
こうしたものは一部に過ぎず、挙げ始めれば枚挙にいとまがありません。

健康課題は大きく、「マクロ」「メゾ」「ミクロ」というそのアプローチ視点からの分類が可能なのではないか?と私たちは考えています。

「マクロ」とは、WHOや厚生労働省、企業のマーケティングレベルといった大規模なレベルでの対応が行われるアプローチで、マスマーケットや不特定多数のターゲットを想定した上での健康課題の解決に向けた理解促進や行動促進を取られるものになります。
「お医者さんで禁煙だ!」による禁煙促進に向けた疾患啓発はわかりやすい例で、そのリスクや対応方法を、様々なメディア等を活用し発信することで、理解と行動を促すように設計されているものが多いと思います。

「メゾ」とは、自治体レベルや特定のターゲットグループを設定した上で展開されるアプローチです。
“地域における子育て支援”や“企業における健康診断&健康指導”と言った形に代表されるもので、ターゲットグループの価値観や特殊性をある程度勘案した上で展開される理解促進・行動変容のアプローチを取ります。

そして最後に「ミクロ」です。
これは病院や福祉施設といったいわゆる臨床現場において1体1での健康増進アプローチを想定していただくとイメージが持ちやすいかもしれません。禁煙外来における喫煙者を対象としたエンパワー施策などが挙げられるでしょうか。
これらの考え方については、また改めて触れていきたいと思いますが、
挙げられた健康課題に対しては、マクロ・メゾ・ミクロのどれかひとつの視点で対応をとる、というわけではなく、
その規模や状況にあった【プレイヤー】が、【ターゲット】となる生活者や患者さんに対して対応を行なっています。
言い方を変えれば、ひとつの同じ健康課題でも、ミクロ・ミクロ・メゾのどの視点から対応を考えるかによって、行われる“仕掛け”も期待する“成果”も、厳密には若干の違いを持つことが多いと思います。
実務家の皆さんは、この対応の設計に日々尽力し、その取り組みの成果を最大化するための方法を模索し続けているわけです。
そしてそれぞれの視点からの取り組みが有機的に結び合ったときに、その健康課題の解決は大きく進捗するのではないでしょうか。

 

健康実務の根幹は、ターゲットに“理解”と“行動”を促し、理想的な結果に誘うこと

繰り返しになりますが、こうして存在するさまざまな健康課題については、多くのプレイヤーがその解決に向けた活動に尽力しているわけです。

研究者の視点で見てみましょう。
その健康課題の原因となる “悪い” 行動を取ってしまった場合、結果としてどのような健康被害が想定されるのかについての研究を進めています。研究者の皆さんは、その研究成果を論文としてまとめて様々な学会誌に投稿し、その研究で明らかになったことを社会に発信しています。また、ちがう研究では、その問題行動を抑制・根絶するためのアプローチについて”観察研究”や”比較介入研究”を実施し、「こうしたほうがその問題を防ぐことができる!」というリコメンデーションを社会に対して発信しているわけです。
実務家の皆さんも、その研究成果を可能な限り活用しながら、どうしたら目の前にいる患者さんを、生活者を、リスク行動から回避させ、より健康な日々を送れるように様々な活動を行なったりします。

そこでスタートラインとして、認識合わせをしておきたいことがひとつあります。

前述したマクロ・メゾ・ミクロのどのアプローチをとるにせよ、健康課題を解決するための考え方として、ひとつの共通項が見出せると思います。

「理解」 → 「行動」 → 「結果」

それは、【ターゲット】の最終的な健康という結果を導き出すために、
ターゲットの正しい“理解”を促し理想的な“行動”に誘う、ということを基本的な考え方として対応が設計されているということに他なりません。
その正しい情報や行動は、先ほどの“様々な研究成果から得られたエビデンス”をもとに設計されるものとなるわけです。

 

どうしたら理解し、期待する行動を取ってくれるかを企てることが「健康デザイン」

この“理解”と“行動”を促し、理想的な健康に関する“結果”にいかに誘うか?という営みを、私たちは「健康デザイン」と呼んでいます。

御察しの通り、理解と行動を促すということは、特段健康問題に限ったことではなく、
一般に企業が商品やサービスの購入や使用を促す際にも、NPOや地域の団体が対象となる生活者に活動を周知し参加を促す時にも、
はたまた、仲間内や家庭の中での日常的な活動の中でも、戦略的に、あるいは時に“無意識的”に行われているわけです。

みなさんが【イチ生活者】としても【実務家】としても実感されているように、
この【ターゲット】の理解と行動を促すというのは本当に難しいことです。
どれだけ熱意を持って伝えても、【ターゲット】が自分ゴト化をして真摯にその情報に向き合ってくれない限り、
なかなか結果は出ないわけです。この告白にも似たターゲットを誘うためのコミュニケーションこそが
この健康デザイン論において注目しているテーマとなります。

どうしたら必要な「理解」をしてくれるのか。
どうしたら期待される「行動」をとってくれるのか。

この健康デザイン論を通じて、この問題にしっかりと向き合っていきたいと思います。

  • さまざまに存在する健康課題解決に向けて、多くの健康実務家が弛まぬ努力をしている
  • 健康実務の根幹は、ターゲットに“理解”と“行動”を促し、理想的な結果に誘うこと
  • どうしたら理解し、期待する行動を取ってくれるかを企てることが「健康デザイン」